意識の劇場と本質的自己との調和 (その2)


tomy0510.jpg前回のつづき)
劇場を統率する意識は、現実的な生活に必要なものでありながらも、劇場の多くは、本質から離れていることによって、自己を省みるための機会から自らを遠のかせてしまいます。

劇場へのあこがれは、人生の中で最も必要のないものです。しかし、多くの人がそれを持つことがすばらしいと教えられ、また、そこに向かっていくことをよしとされるような生活を送り続けていることもまた事実です。

劇場を渡り歩く生活から脱し、劇場の数を減らしていく効果的な方法の1つに、ステップ・バック(一歩下がって全体を眺める)という手法があります。

この手法はとてもシンプルで、普段の何気ない行動にこれを用いていくと、劇場から離れ、一歩下がった位置から自分を眺める方向性を与えることができます。

まず、劇場に入りそうな自分、入りそうなシチュエーションを探します。劇場が見つかったら、そこに入る直前に、「ステップ・バック」とつぶやくか、心の中で唱えます。一歩退いて、自分とその状況を眺めるようなイメージをしてみるのです。

実際に全体を眺めるイメージがうまくできなくてもかまいません。その方向性に意識が向かうことが重要です。本来は、劇場に入る自分をはっきりと認識することだけでもある程度の効果があるのですが、ステップ・バックは、さらに本質的な自分へ回帰するゆるやかな方向性を与えてくれるのです。

たとえば、朝、いつものお店でコーヒーを買うときには、たいていの場合、そのお店のスタッフとのいつものやりとりが生じます。これを劇場として、ステップ・バックしてみます。

そのやりとりの直前に、「いつもの自分」、「自分がお客なら当然こうするだろう」と想定されている自分の中の自分から、一歩、退いて、自分があたかも劇場に入っていくのを踏みとどまってただ眺めているようなイメージをします。

このことで、いつもの現実的な状況や感情の変化などをよりはっきりと認識するかもしれません。ステップ・バックすることで、それまで前のめりだった意識が弛緩し、より多くの情報が自分に流入するからです。

その情報を、ただ受け取りながら、いつも通りの動作を行います。

ひょっとしたら、その後のやりとりに変化が生じる可能性があります。いつもは「ありがとう!」と言ってカップを受け取っていたのに、うっかり「おおきに!」と言ってしまうかもしれません。

そうした、ある種、気分の変化による状況の揺らぎと呼べるようなものをそのまま受け取ります。もし不安になったり、いつもと違うことで落ちつかない気分になりそうになったら、普段と違うやりとりが発生しても全く問題はなく、むしろそれはこの地球での体験をより多くの色彩で彩る魅力的な出来事なのだ、と、自分に語りかけてみます。この認識によっても、劇場から離れていく方向性が加速されます。

劇場からただ離れただけの自分は、本質的な自分のコア(核)から見ると、いくつかの周回軌道に点在する衛星のように、あいまいなポイントを示しているに過ぎないかもしれません。しかし、このステップ・アウトによる「ただ劇場から離れる」だけの行為を繰り返していくと、徐々にその点はコアに近づいていき、周回軌道の半径が小さくなり、いつしか点と点が重なっていく現象が起きます。

2つの劇場からステップ・バックしたそれぞれの自分の像が重なったとき、2つの劇場を等位に眺めることのできる俯瞰的な自分が現れます。その自分にとっては、2つの劇場は、本質的な自分からも等距離にあると認識されるのです。

この瞬間に、2つの劇場は、1つの劇場となります。このときに出現する次の1つの劇場は、点と点が重なった地点、本質的な自分から等距離の、2つの劇場を眺めていた自分ということになります。

さらにここからもステップ・バックすればまた別の劇場からステップ・バックした自分と重なる地点が出てきて、劇場はもっと少なくなっていきます。こうして徐々に劇場が減っていくと、自分がよりセンタリングした状態で、本来の自分から近いところで生活のすべてを行うようになるのです。

日常のあらゆる行動に、このステップ・バックを用いると、自分が統合されていくような感覚を得られるでしょう。しかし、実際におきていることは、今までなんとなく分散してしまっていた自分を、元の位置に戻している、といったようなことなのです。

本質的な自分、そこには人間を肉体として形作るパワー、自分のやりたいことを現実化したり、ミッションを実行するもろもろのエネルギーすべてが秘められています。

劇場から離れ、本質に戻っていく方向性を日常の中に取り入れることは、自分の日常のちょっとした出来事に彩りを与えたり、よりシンプルに本来の自分であり続けることを可能にしてくれるでしょう。そしてまた、最終的には、本質的な自分を体現した状態になる、自己を実現するための、具体的なロードマップとなるのではないかと、そんな風に思うのです。

富田しょう
 


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